1. 遷移金属錯体触媒を用いる重縮合及び高分子反応の開発とその応用

 −新しい機能性高分子の分子設計に向けて−


 遷移金属錯体触媒は温和な反応条件下で高反応性・選択性を示すことから、近年多くの有機合成反応に展開されています。また、それらの反応の有用性、多様性から数多くの新しい縮合系高分子生成法が開発されています。

 例えば、遷移金属錯体を触媒とする炭素−炭素結合生成反応を2官能性の芳香族化合物の重合に適用することによって、様々な芳香族π共役高分子を容易に合成することができます。

 
有機金属重縮合法の特徴を活用することによって、

 ・π共役高分子の構造、特に芳香環単位の連続構造の制御

 ・芳香族分子の重合に対応した電子密度や光吸収・発光特性の制御

 ・芳香環状に側鎖を任意に導入し、加工性に富んだ導電性高分子の設計

などが可能となることから、様々な骨格からなるπ共役高分子が開発されています。更に最近では、分子量制御可能な縮合重合も開発されています。

 我々もこれまでにπ共役高分子を構成する芳香環ユニットの電子親和性と結合位置に注目し、遷移金属錯体触媒を用いる化学的・電気化学的重縮合法により各種新規π共役高分子の合成とその光学的・電気的特性評価を行ってきました。特にπ電子欠如系複素環ユニットから構成されるπ共役高分子に注目し、従来例の少ないn型導電性高分子やドナー−アクセプター型交互共重合体の分子結成と機能評価について系統立てた研究を進めてきました。

n型導電性π共役高分子の分子設計

D−A型π共役高分子の分子設計


C-H 結合を反応点とする高分子合成

我々は最近、C−C結合形成の新たな合成手法である直接的アリール化反応並びに脱水素型クロスカップリング反応による機能性高分子合成に取り組んでいます。





これらの反応はC−H結合を直接反応に利用してC−C結合に変換できるため、アトムエコノミカルで環境負荷の小さい合成法として高い潜在能力を秘めています。
尚、この研究については京都大学化学研究所遷移金属化学研究領域(小澤文幸教授)
とも相互協力しています。
また、ここで得られた高分子の機能開発については、物質・材料研究機構(NIMS)半導体ナノ界面グループ(安田剛主任研究員)と共同研究を進めています。

直接的アリール化反応を用いる機能性高分子の合成01
直接的アリール化反応を用いる機能性高分子の合成02
Angewandte Chemie International Edition Highlight review
マイクロ波加熱を利用した機能性高分子の合成
結合位置の制御された機能性高分子の合成
Wiley-VCH社の“Best of Macromolecular Journals 2013”に掲載されました。(ワイリー・サイエンスカフェの関連記事
WileyのMaterialsView siteでHottest Articlesとして紹介されました。
有機薄膜太陽電池用材料の効果的な合成
有機薄膜太陽電池材料の合成(その2)
直接的アルケニル化反応を用いる高分子半導体の合成 
簡便な高分子半導体のワンポット合成技術 
不活性ガス雰囲気を必要としない簡便な高分子半導体の合成技術 
脱水素型クロスカップリング反応を用いる高分子半導体の合成 

研究成果がプレスリリース(NEDO, 筑波大学)されました。(2014.2) (財経新聞の紹介記事)
Nanowerkのnews siteで紹介されました。  
研究成果がプレスリリース(筑波大学NIMS)されました。(2018.1)
日経テクノロジーOnlineの紹介記事EE Times Japanの紹介記事科学新聞の紹介記事

Chem-Station, スポットライトリサーチの紹介記事
これまでの研究を総説にまとめました。(有機合成化学協会誌,2014, 11, Open access)
     これまでの研究を総説にまとめました。(Bull. Chem. Soc. Japan,2019, 1, Open access)




Pd/Cu二元系触媒による直接的アリール化重合 
脱水素型クロスカップリング反応を用いる高分子半導体の合成02
安定性と触媒活性を兼ね備えたPd(0)錯体 
脱水素型クロスカップリング反応の反応機構を調べる 

C−N, C−P 結合形成反応を利用する機能性高分子の設計


 上記のような炭素−炭素結合生成反応やカルボニル化を伴う縮合反応が高分子合成法として多数利用されてきたのに対し、近年、遷移金属錯体触媒を用いる炭素−ヘテロ原子結合生成反応を高分子生成反応として利用する合成法が注目を集めています。  

 我々は、パラジウム及びニッケル錯体触媒を用いる炭素−窒素及び炭素−リン結合生成反応を重縮合及び高分子反応に適用することによって、新規のポリアミン類及びポリホスフィン類を合成する手法の確立について研究を進めています。さらに、それらの合成法を使った新しい機能性材料の開発を指向した高分子の分子設計・機能評価について研究展開を行っています。

 

 色素には芳香族アミン骨格を有するものが多く存在します。我々は、上記の反応によりポリマーの主鎖中もしくは側鎖に機能性色素を導入した機能性ポリアミン類を合成し、それらの特性評価を行っています。



機能性ポリアミンの開発1

機能性ポリアミンの開発2

機能性ポリアミンの開発3

機能性ポリアミンの開発4
機能性ポリアミンの開発5

金属フリーで金属調光沢を持つフィルム
多彩な色調の光沢フィルム 

これまでの研究を総説にまとめました。(塗装工学, 2017.1)

発光性色素の機能化1 
発光性色素の機能化2 

 また、この合成手法を環状化合物形成に展開し、新しい骨格からなるホスト分子の設計・構築を進めています。



環状ポリアミンの機能開発
水素結合を利用した環状アミンの構築
新しい環状プロトンスポンジ
新しい有機強塩基の設計と機能開発
ACS Web(Noteworthy Chemistry)にて紹介されました。)
環状ポリアミンの効率の良い合成

これまでの研究を総説にまとめました。(Petrotech, 2014.11)

一方、上記のC-P結合生成反応より得られるポリホスフィン類は主鎖中にキレートホスフィン配位子骨格を有することから、主鎖型高分子配位子として機能します。そのため、このポリマーと遷移金属の反応により分離回収やリサイクルを指向した各種新規高分子錯体触媒の構築を進めています。


機能性ポリホスフィンの開発

ACS Webにおける紹介記事
リン光発光錯体の合成



研究内容

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