新規主鎖型高分子錯体の構築

−再利用性を持つ均一系錯体触媒の開発に向けて−


 遷移金属錯体触媒を用いる有機合成反応は穏和な条件下で高い反応性・選択性を示すことから、様々な新しい有機合成手法として活用されています。しかし、それらのほとんどは均一系触媒反応であり、反応終了時の錯体触媒の回収・再利用については課題が残されています。

 近年、水質環境保全の機運が高まり、水質汚濁防止法の強化やPRTR法の施行など排水・廃液に対する規制が厳しくなっています。遷移金属錯体触媒を用いる有機合成反応では、反応終了後の錯体触媒の回収・再利用は容易ではなく、廃液処理における重金属の除去や触媒に含まれる有価貴金属のリサイクル・省資源の観点からも非効率的です。錯体触媒を高分子等に固定化した固定化触媒は触媒と生成物の分離回収に対しては有効ですが、反応が不均一系で進行することから反応効率の向上等が期待されています。

 そのような背景から、最近、均一系・不均一系触媒の長所を兼ね備えた新しいタイプの錯体触媒の開発が注目されています。我々も、そのようなリサイクル性を兼ね備えた均一系錯体触媒の開発を目指して下記のような主鎖型高分子錯体の設計・合成を行っています。

ここで用いる主鎖型高分子配位子は、その主鎖構造が配位子として代表的なキレートホスフィン骨格から構成されており、種々の遷移金属錯体と効率よく錯形成して主鎖型高分子錯体が得られます。

 ここで得られる高分子錯体は特定の有機溶媒に対して良好な溶解性を示すことから、低分子錯体触媒と同等の特性を有する均一系触媒として機能します。

また、反応終了後に貧溶媒を添加するとこの高分子錯体は沈殿として分離回収できます。回収された高分子錯体は、再び良溶媒に溶解させて触媒として再利用します。

 今後、さらに種々の主鎖型高分子配位子及び中心金属のバリエーションを増やし、またそれぞれの特性解析を進めることによって、様々な有機合成のニーズに対応できるリサイクル性高分子錯体触媒の構築が期待されます。


研究内容

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