新しいリン光発光錯体の開発

―新規ピンサー型錯体の構築と機能評価―


近年、液晶ディスプレーに代わる次世代平面ディスプレーとして有機EL(エレクトロルミネッセンス)素子が国内外で活発に研究されています。最近では実用化に向けた素子の駆動時間・安定性の向上と共に、省電力化の観点から電気から光への変換効率の更なる向上が追求されています(注1)。

EL素子の概念図

 私たちは、チオアミド基やホスフィンスルフィド基を有する新規のピンサー型錯体の構築と機能開発という観点から研究を進めています(2)。そして、、リン光発光効率に優れた新しいピンサー型白金錯体を調製しました。

ピンサー型白金錯体の分子構造

得られた白金錯体は固体結晶状態でリン光発光(赤色から黄色)が観察できます。また、これらの錯体を発光材料とするEL素子からも同色の発光が観測できます。


白金錯体の固体結晶状態(赤)とガラス状態(青)の発光スペクトルの例


白金錯体(2種類)を発光材料に使ったEL素子の試作例

ここで得られるピンサー型錯体は各種誘導体の合成が可能であることから、今後の分子設計によって、発光色の調整や発光効率に優れたリン光発光錯体の構築が期待されます。


(注1)有機分子の励起状態には一重項励起状態と三重項励起状態の2つの状態が存在し、一重項励起状態からの発光を蛍光、三重項励起状態からの発光をリン光と呼びます。それらの生成割合は1:3であることから、リン光を活用することによって有機EL素子の変換効率の向上が期待されます。そのため、近年、リン光発光材料を用いる有機EL素子の開発を目指した研究が盛んに進められています。

(注2)ピンサー(Pincer)配位子は、E-C-E(Eは電子供与性ヘテロ官能基)で表される「一価のアニオン性三座配位子」の総称です。このような配位子から生成するピンサー型錯体は金属−炭素結合を含む安定なメタラサイクルを形成することから、近年、様々な反応に用いられています。しかし、チオアミド基やホスフィンスルフィド基を電子供与性ヘテロ官能基として用いたピンサー型錯体はこれまでにあまり例が無く、その特性・反応性には興味が持たれます。今後の分子設計と基礎物性評価によって、発光錯体の開発だけでなく新規の触媒開発・分子集合体の形成等に対しても新たな指針を提供できるものと思われます。

研究内容
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