図1 Ti-Ni形状記憶合金の応用例
通常、金属は一旦変形されると元の形状には戻りません。しかし、形状記憶合金には、変形した後に加熱するだけで元の形状に戻るという性質(形状記憶効果)があります。つまり、形状記憶合金は温度センサーとアクチュエーター機能を両方兼ね備えている材料であるため、従来の材料の代替品として使用することによってシステムの小型化や多機能化が可能となります。
現在までに、多くの種類の形状記憶合金が報告されており、その中でもTi-Ni形状記憶合金は形状記憶効果の安定性や延性・強度などの機械的特性、さらには耐食性にも優れているため、様々な分野で使用されています。図1はTi-Ni形状記憶合金の応用例を作動温度に対して並べたものです。Ti-Ni形状記憶合金は、床下換気口、冷暖両用エアコン、新幹線駆動装置、混合水栓、炊飯器、熱水カット弁といった様々な製品に利用されています。しかし、この合金には、100℃以上の温度では形状記憶効果を利用できないという制約があります。そのため、100℃以上の温度で形状記憶効果が利用できる合金(高温形状記憶合金)を実用化させることができれば、エンジンやボイラーなどの高温となる環境下でも使用することが可能となり、形状記憶合金の応用範囲を広げることができます。
Ti-Ni形状記憶合金にZr,Hfおよび貴金属元素であるPd,Au,Ptを添加すると作動温度が上昇することが報告されています。これらの元素の中で、ZrおよびHfは貴金属元素に比べて安価であるため、Ti-Ni-ZrおよびTi-Ni-Hf合金は高温形状記憶合金として実用化が期待されています。しかし、これらの合金は加工性が悪いため、まだ実用化には至っていません。
そこで、我々のグループでは、Ti-Ni-ZrおよびTi-Ni-Hf高温形状記憶合金に新たな元素としてNbを添加することによって、加工性の改善を図りました。その結果、加工性を大幅に改善することができ、破断せずに60%以上の圧延加工が可能となりました。また、開発した合金の作動温度は100℃以上であるため、高温となる環境下でも形状記憶効果を利用することが可能です。以上のように、我々が開発した合金は実用可能な高温形状記憶合金として十分期待することができます。
現在は、実際に製品として使用することを考え、形状記憶効果の安定性や耐食性について研究を進めています。