近年開発されたβ型Ti合金ゴムメタルは、以下に示すような様々な興味深い特性を示します。
- @ 低ヤング率&高強度
- A フックの法則に従わない非線形的な弾性変形挙動
- B 加工硬化率の非常に小さな塑性変形挙動
- C 77K〜500Kの温度範囲で熱膨張係数が非常に小さい
- D 77K〜500Kの温度範囲でヤング率の変化が非常に小さい など
ゴムメタルのこれらの特性は様々な応用が期待できます。例えば生体材料には、高い強度と同時に骨と同程度の低ヤング率が求められます。ヤング率を低くして強度を高くするというのは相反することであり一般的な金属材料では難しいのですが、ゴムメタルは約50GPa程度の低ヤング率&1GPa以上の高強度(@)を実現しているため、生体材料として有望であると言えます。また温度変化時の形状変化が好まれないような環境(精密機器の部品等)で用いる場合、Cのように熱膨張率が非常に小さいといった特性も有用です。
このようにゴムメタルの特性は上記の一例以外にも様々な応用が考えられますが、"なぜそうなるのか″というメカニズムに関しては多くの点が不明です。これらのメカニズムの解明は、応用面のみならず基礎的な側面からも重要です。
そこで当研究室では、マルテンサイト変態をキーワードにゴムメタルの特異な挙動のメカニズム解明に取り組んでいます。
なぜマルテンサイト変態がキーワードになるのかというと、そもそもゴムメタルの合金組成(典型例:Ti-23Nb-2Zr-0.7Ta-1.2O (at.%))は、当研究室で開発してきた生体用形状記憶・超弾性合金の組成と類似しており、ゴムメタルから少し組成を調整することで形状記憶特性や超弾性特性を示す合金へと変化します。また逆に、我々が開発してきた生体用形状記憶・超弾性合金も、僅かな組成変化でゴムメタルと同様の挙動を示すことを確認しました。
これらのことから、マルテンサイト変態は何らかのかたちでゴムメタルの特異な振る舞いに(あるときは表面的に、あるときは深い部分で)寄与をしていると考えています。もしそうなら、このゴムメタルの種々の挙動のメカニズムを解明することは、マルテンサイト変態とそれらの挙動の関係を詳細まで明らかにすることであるとも言えます。
現在このような考えでゴムメタルを捉えその変形メカニズムの解明に取り組んでおり、これらの過程を通じてマルテンサイト変態に関する新しい知見とより深い理解が得られると考えています。そして将来的には、これらの基礎的な知識が革新的な材料開発の一助となると信じています。