形状記憶合金とは-形状記憶合金の動作機構

マルテンサイト変態

 形状記憶効果にはマルテンサイト変態が密接に関連しています。マルテンサイト変態とは、固相中における結晶構造相変態の一種で、原子の拡散を伴わずに起こるため、各原子はお互いに連携して移動します。その結果、若干の体積変化を示す擬剪断変形を生じます。これが形状記憶効果の原動力となるのです。

 一般に形状記憶合金に現れるマルテンサイト変態は、特に熱弾性型マルテンサイト変態と呼ばれます。鉄系合金は例外として、変態と逆変態の温度履歴差が小さく、数度から数十度となっています。さらに、マルテンサイト相と母相の界面の整合性が良く、マルテンサイト相自身が容易に低応力で再配列するため、永久変形の原因となる転位が形成されません。このような特徴が、形状記憶効果の為の必要条件の一つとなっています。

形状記憶動作

形状記憶効果と超弾性の機構

図1 形状記憶効果と超弾性の機構

 形状記憶効果の動作を簡単のため、二次元結晶で見てみましょう。

 まず、図.1(a)の母相がMf点以下になると、図.1(b)に示すようなマルテンサイト相の結晶構造に変わります。三次元の実際の結晶では、24通りの方位のマルテンサイト兄弟晶が形成されます。兄弟晶とは、結晶構造が同じで、結晶方位が異なるマルテンサイト晶のことであり、図.1(b)にはA,Bで示された二種類の方位の兄弟晶が形成されています。個々の兄弟晶は、元の母相から見ると剪断歪みを生じていますが、冷却により形成された兄弟晶は、お互いの歪みを緩和し合うように自己調整して形成されるため、マクロ的には試料形状は変化していません。

 一方、形状記憶合金に現れる熱弾性型マルテンサイト変態では、AとBの境界が低応力で簡単に移動するため、マルテンサイト相状態の試料はゴムの様に柔らかくなっています。外力が加わると、図.1(c)の様に外力に対して優先方位の兄弟晶が成長し、試料はマクロ的に剪断することになります。この試料を加熱すると、全てのマルテンサイト晶は母相に逆変態し、その結果、試料形状も図.1(a)の様に完全に元に戻ることになります。これが形状記憶効果です。

 マルテンサイト相は一般に、変態温度以下に冷却して生ずるものですが、変態温度以上でも外力を負荷すれば変態を誘起することができます。それは、上述のようにマルテンサイト変態が、剪断変形によって引き起こされるため、外力が変態を助けるためです。そこで、Af点以上の温度で外力を加えると直接図.1(a)から図.1(c)へ、優先方位のマルテンサイト兄弟晶のみが形成され、試料はマクロ的に剪断歪みを生じます。逆変態温度以上の温度では、マルテンサイト相はエネルギー的に不安定なため、外力を除くだけでも図.1(c)から図.1(a)への経路で母相状態へ戻ります。この経路の繰り返しによって、試料はあたかも数10%もの弾性歪みを持っているかのような変形をするため、これを超弾性といいます。

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