ケモセンサーとして働く金属錯体(その2)

−錯体揮発性有機化合物に応答するりん光発光性ハイブリッドフィルムの調製−


 一般にパラジウム錯体は白金錯体に比べて金属内遷移が低エネルギー側に位置しており、無輻射失活を起こしやすいことが知られています。そのため、白金錯体と比べて室温で安定なりん光発光特性を示すパラジウム錯体の報告例はあまりありません。私たちは、これまでの研究の中で、2級チオアミド基を導入した金属錯体が、外部からの化学的刺激に応答して発光強度が増強されることを見出しています(参考)。そこで、2級チオアミド基を導入したピンサー型パラジウム錯体を調製して高分子マトリクス中に分散・溶解させ、室温で安定なりん光発光特性を有するハイブリッドフィルムの調製を試みました。

 種々の高分子について調査した結果、ポリビニルピロリドン(PVP)をポリマーマトリクスとして用いた場合、室温で良好な発光特性を示すハイブリッド薄膜が得られることが確認されました。

このハイブリッド薄膜をクロロホルムやニトロメタン等の揮発性有機化合物の蒸気に暴露すると速やかに消光すること分かりました。また、このフィルムを再び大気中に戻すと発光機能は回復し、安定な繰り返し応答性を示すことが確認されました。

これらの結果は、錯体とマトリクスの非共有結合的な相互作用と密接に関係しています。今後は、外部環境に応答して光の彩色が自在に変わるハイブリッドフィルムの調製を目指します。