基礎物理定数(プランク定数、電気素量、電子の質量、光の速さ)のみを実験値として用いて物質の構造と電子状態を定量的に求める計算を第一原理計算といいます。特に、相対論効果を取り入れて行う第一原理計算を相対論的第一原理計算といいます。重い元素を含む物質の構造や電子状態を定量的に求めるには、相対論的第一原理計算を行う必要があります。
信頼性の高い計算を行うためには、電子分布がつくる静電ポテンシャルを高い精度で計算することが不可欠です。「Full Potentail」という用語はこのことを表しています。また、「LCAO法」という用語は、物質中の波動関数を表すのに原子の波動関数の線形結合を使って表す方法を表します。この方法の利点は、分子、および、1、2、3次元の結晶を同一のアルゴリズムで計算できるという点にあります。
スピン軌道相互作用をはじめとする相対論効果を完全に扱うには、電子の従う波動方程式としてディラック方程式を解く必要があります。この方法ではスピン軌道相互作用を正確に扱えるため、強磁性体の磁気異方性や軌道磁性の研究に適した方法であるといえます。この方法を Fully Relativistic Full-Potentail LCAO (FFLCAO) 法と呼んでいます。
FFLCAO 法は相対論効果を完全に扱えるという点では優れているのですが、計算がかなり大規模になってしまいます。しかし、問題によってはスピン軌道相互作用があまり重要でないものも少なくありません。そこで、相対論効果のうちスピン軌道相互作用を平均化して扱うと、計算規模を小さくすることができます。この方法をScalar Relativistic Full-Potentail LCAO (SFLCAO) 法と呼んでします。